彫刻家になるには?仕事内容や求められる資質・能力などを紹介
2022.08.02
石や木材、金属(ブロンズや鉄)、石膏などを素材として時間をかけて彫り、立体的な造形物を作り出す彫刻家。公園や広場に置かれた彫刻作品のすごさに、圧倒された人もいるのではないでしょうか?美術が好きな高校生の皆さんの中には、「こんな彫刻を作ってみたい」と彫刻家に憧れた人もきっといるはず。
この記事では、彫刻家になるための方法や仕事内容、求められる資質・能力などを解説します。彫刻家になるための勉強ができる大学・学部も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
彫刻家とは?
彫刻家とは、石材や木材、ブロンズや粘土など、さまざまな素材を彫り込んで立体的な造形物を生み出す芸術家のこと。「美術造形家」「立体アーティスト」と呼ばれることもあります。
彫刻家は、表現したいもののイメージや世界観に合わせてさまざまな素材を選び、素材に合った道具を使って彫り込んでいきます。作品の大きさも、手のひらサイズの物から巨大な物まで、作家や作品によってさまざまです。
公園や博物館などの施設に設置されたシンボルやモニュメントを見たことがある人も多いはず。プロとして活動する彫刻家は、企業や自治体から仕事を依頼され、報酬を得てこのような作品を製作している人を指します。プロの彫刻家の仕事がイメージしやすくなりますよね。プロとして活動している人も、趣味で作品を製作している人も、彫刻家と自分で名乗ったり呼ばれたりすることがあります。
彫刻家の仕事内容
日本のお寺などの古い建築、あるいは海外の美術館に展示されている彫刻を写真で見たことはありますよね。このように、彫刻は昔からある美術表現で、仕事の進め方もさまざまです。
木彫りの仏像と現代的なオブジェでは、同じ彫刻表現だったとしても、目的も作り方も大きく異なります。
また彫刻製作だけで暮らしていくのは簡単なことではありません。高校・大学教員など本業を持ちながら粛々と作品を作っていくのです。その彫刻作品が有名な賞を受賞したり、メディアで取り上げられたりすると、評価が徐々に高まっていきます。みずからの作品を発表する場として、ギャラリーで個展を行うことも。その積み重ねで、プロの彫刻家として認められていくのです。
作品が主な収入源という著名なプロ彫刻家になると、企業や自治体などのクライアント(依頼主)から依頼を受けて、作品を製作します。製作するサイズや使用する素材、表現方法を考え、クライアントに逆提案する場合もあります。
彫刻家の仕事のやりがい
高校生の皆さんなら、古代の彫刻作品が海外の有名美術館に展示されているのを、教科書や資料集の写真で見たことがありますよね。彫刻家が手掛ける立体的な造形作品は、素材などによるものの、長きにわたって残されていく物がほとんど。彫刻家が生み出した作品は何十年、何百年という時を超えて受け継がれ、人々にインパクトを与えることもあるのです。
彫刻作品が長く語り継がれ、多くの人に愛されることは、彫刻家の大きなやりがいとなるでしょう。自分が作り上げた彫刻作品が多くの人の目を楽しませ、場合によっては新しい時代の彫刻家誕生にまで影響を与えるかもしれないと思うと、とてもワクワクしてきませんか?
彫刻家の仕事の流れ
彫刻家の仕事に、決まったルーティンワークはありません。ここでは例として、企業や自治体からブロンズ像製作という大きな仕事を依頼された彫刻家が、「焼型鋳造法」という方法で進める仕事の流れを見ていきます。
1. 受注・打ち合わせ
企業や自治体などから、「彫刻作品を製作してほしい」という依頼を受けます。著名な彫刻家なら、直々に指名を受けることもあるでしょう。彫刻家は契約と同時に依頼側と打ち合わせを行い、作品の展示場所や作品の大きさ、素材、コンセプトを詰めて、作品のイメージを固めていきます。
また、ブロンズ像は彫刻家ひとりではできません。アトリエがあればそのスタッフと、さらに鋳造や着色などの加工は専門の職人さんとの共同作業になります。
2. 粘土原型製作
ブロンズ像製作のため、まずは彫刻家が粘土で原型を彫ります。製作期間は胸像サイズであれば約1ヵ月、全身像だと2〜3ヵ月かかるといわれています。
3. 鋳造
彫刻家はアトリエスタッフといっしょに、完成した粘土原型から石膏で型取りを行います。この石膏の型でさらにFRP(繊維強化プラスチック)の鋳型を作り、そこにや鋳造専門の職人さんが高温で溶かした銅(ブロンズ)などの金属の液体を流し込むのです。これが、鋳造という危険を伴う作業です。
4. 着色・仕上げ
彫刻家はブロンズ加工専門の職人さんや、着色専門の職人さんと共同で作業を行います。
流し込んだブロンズが冷めて固まったら鋳型を外し、細かな修正や仕上げを施します。ブロンズ表面をコーティングしたり、専用薬品によって化学反応を起こさせたりして、立体が美しく見える色を定着させるのです。
5. 納品
完成した作品をアトリエスタッフたちと指定の場所に運搬・設置し、除幕式などが終われば納品は完了です。作品には彫刻家の氏名や製作年が刻まれ、作品が増えるごとに彫刻家としての実績が積まれていきます。
彫刻家の年収
ごく一部の有名なプロ彫刻家を除いて、彫刻家が彫刻作品で得る収入はとても少ないのが実情です。長い年月をかけて彫刻作品を完成させても買い手がつかず、収入自体は0円となることも。彫刻家全体として平均年収に関するデータは存在しないのです。
有名・無名を問わず、彫刻家として活動している人の多くは、学校の美術教師や一般の会社員など、彫刻家とは別に仕事を持ち、収入を得ています。そして、余暇を使って彫刻作品の製作にいそしんでいるのです。
一方、有名なプロ彫刻家ともなると、作品が数百万円で取引されることもあります。世界のオークションでは億単位の値づけがされる彫刻作品も!彫刻家の世界ってすごいですよね。
彫刻家に必要な資質と能力
彫刻家になるには、どのような資質と能力が必要なのか想像できますか?ここでは、特に重要な5つの資質や能力について見ていきたいと思います。
美的センス
彫刻家は、立体造形の専門家です。美的センスがあることは必須条件といえるでしょう。作品のコンセプトや完成イメージを形にしていく必要があるからです。
彫刻作品は実用品ではないので、とにかく芸術性で勝負するもの。既存作品のまねではなく、自分の美的センスをフル活用し、作品を作り上げる必要があるのです。さらに、作品を通じて強いメッセージを発していくためにも卓越した美的センスが求められます。
発想力
彫刻家が手掛けるのは、人や動物をかたどった彫刻作品ばかりではありません。モニュメントやシンボルといった抽象的な作品を手掛けることも。とにかく柔軟な発想が求められる仕事なのです。
近年では、FRPなど新しい素材が彫刻に用いられ、表現の自由度が高くなっています。表現の自由度が上がれば、彫刻家に求められる発想力のレベルもまた上がるのです。常に新しい物を新しい表現で生み出そうとする姿勢が必要といえますね。
技術力
どれほど斬新で優れたデザインをイメージできたとしても、具体的な形にできなければ意味がありませんよね。彫刻家は、自分の頭の中にあるイメージをデッサンで描き出し、さらに彫刻作品として形にしていく技術力が求められます。そのため、繊細で大胆な彫りができることも重要な要素です。
造形物をイメージどおりに製作するには、木材や石材・金属・ガラス・プラスチックなど素材の特性をよく理解している必要があります。技術をフルに活かすため、素材に関する深い知識も不可欠といえるでしょう。
使命感・責任感
彫刻作品を作る工程は、素材を少しずつ彫り進めていく地道な作業の繰り返し。特に大きな作品になると、数ヵ月~数年単位の非常に長い期間を要します。自分の作業に妥協することなく、使命感を持って取り組む必要があるでしょう。
企業や自治体などから依頼を受けて製作するとき、作品を設置し、公開するまでの期限が決まっているケースがほとんど。芸術家とはいえ、期日に間に合うように作業を進め、約束どおりに作品を仕上げる必要があります。作品に一切の妥協を許さない姿勢で仕事に臨む一方、プロとして必ず期日内に作業完了させる責任感も問われているのです。
彫刻家になるための方法とは?
彫刻家になるには、どのような勉強をしておく必要があるのでしょうか?ここでは、彫刻家の世界の現状と併せて、彫刻家になるための方法を見ていきます。
彫刻家の世界の現状
専業の彫刻家として生活していくことができる人は、実際のところ、ごくひと握りです。大半の人は本業のかたわら彫刻作品を作り続けています。その中には、プロになることを断念していく人もいるかもしれません。
彫刻家が彫刻作品を製作するときには、絵画などほかの芸術分野と比べると、大掛かりな設備や広い場所を必要とします。素材調達に費用がかかることもあり、彫刻家の仕事を軌道に乗せ、プロとして活躍するのはほかの芸術分野と比べて難しい面があるのです。
たとえすぐには作品の良さが世間に認められなかったとしても、「いつか世の中が評価してくれる作品を作りたい」「後世に残る作品を自分は作りたい」と、静かな情熱を持ち続けることが必要な世界といえるかもしれませんね。彫刻という芸術に人生を費やす覚悟があるなら、あなたはきっと向いています!
彫刻家になるための勉強ができる大学・学部
彫刻家になるための勉強ができる大学・学部としては、芸術大学や美術大学が挙げられるでしょう。彫刻学科や造形学科に在籍し、デッサンや塑像、石彫、木彫、テラコッタ(素焼きで作る彫刻)、鋳造といった技法を学びます。
芸術・美術大学では、製作に必要な素材や材料にかかる費用は自己負担。そのため、一般的な大学の学費よりも高額になりがちというハードルがあります。特に彫刻は、多額の材料費がかかることも珍しくありません。
とはいえ、彫刻を専門的に学ぶには、芸術大学や美術大学以外の現実的な選択肢がないのも事実。「彫刻家になりたい!」という強い想いがある人は、早めに必要な学費や必要経費を調べておきたいところですね。
実際に有名な彫刻家は、どのような大学を卒業しているのかを挙げてみました。
<有名な彫刻家の出身校>
・今野健太(東京藝術大学大学院 博士後期課程美術専攻)
・佐藤忠良(東京藝術大学 彫刻科)
・鮫島弓起雄(東京造形大学 美術学科彫刻専攻領域)
・永井天陽(武蔵野美術大学大学院 造形研究科美術専攻彫刻コース)
・名和晃平(京都市立芸術大学大学院 美術研究科彫刻専攻)
・舟越桂(東京藝術大学大学院 美術研究科彫刻専攻)
・松下沙織(武蔵野美術大学 彫刻学科)
※50音順・敬称略
芸術・美術系の大学で彫刻を学んできた有名な彫刻家のように、専門大学で理論を学び、実践を積むことが大切ですね!
彫刻家に必要な資格や受験すべき試験
彫刻家になるために必須の資格はありませんが、造形技術や経験を身につける必要があるため、芸術・美術系の大学で学ぶ人がほとんどです。
芸術大学や美術大学は競争倍率が高く、合格するには学科試験以外にデッサンや塑像など、実技試験に向けた対策が必要。実技試験対策として高校在学中から美術専門予備校に通う人は多いようです。
もちろん、芸術・美術系の大学を卒業したとして、必ず彫刻家になれる保証はありません。大多数の卒業生は美術教師などの仕事のかたわら、彫刻作品を作り続けていくことになるでしょう。自分の才能を信じて、いかに作品を作り続けられるかが彫刻家志望の人に大切な心構えといえそうです。
彫刻家になるために目指すべき就職先
「就職すれば彫刻家の仕事ができる職場」は、残念ながら存在しません。プロの彫刻家に弟子入りする人もいますが、収入面で不安があるため、美術教師の免許を大学で取得して教師として就職する人や、美術館・博物館の学芸員になる人もいます。職業として彫刻家を目指すというより、まずは「彫刻を作り続けていくために収入源を確保する人」が多いのです。
彫刻家ではありませんが、大学で学んだ彫刻の知識や技術が活かせる職業として、自動車など工業製品のプロダクトデザインを行うクレイモデラーが挙げられます。製品を製造する前段階として、工業用粘土で造形を試作するのですが、そのときに彫刻製作のスキルが活かせるのです。彫刻に関連性が高く、安定した仕事を選ぶとしたら、クレイモデラーはおすすめですよ!
彫刻家になった後のキャリアプラン
彫刻家として有名になれば、メディア出演依頼が舞い込んだり、個展を開くことができたり、企業や自治体から仕事を依頼されたりするでしょう。このような露出の機会が増えれば、当然、作品の存在が世の中に知られる機会も増えます。すると、ますます芸術家としての名が高まっていくに違いありません。
彫刻家として培ってきた知識や技術を活かして、大学や美術予備校で教鞭をとる道もあります。才能のある若い人材を発掘し、育てていくことで日本の彫刻界・芸術界の未来に貢献できるはず!
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彫刻家は「収入が得られる仕事」というより、「オンリーワンの存在」です。つまり、「ここに進学・就職すれば必ず彫刻家になれる」という確実な進路はありません。それでも、彫刻家として活躍している人の多くは、高い競争率を突破して芸術大学や美術大学で学び、着々と実績を積んで、彫刻家としての評価を高めているのです。
彫刻家になるための道は決して楽ではありませんが、「自分が作った彫刻で世の中にインパクトを与えたい」という人は、挑戦してみる価値があるでしょう。この記事や「JOB-BIKI」を参考に、ぜひオンリーワンの彫刻家になるための進路を考えてみてください!