心理学者になるには?求められる資質や能力、オススメの進路を紹介
2022.07.11
心理学は、人の心を研究する学問です。ストレスの多い現代社会で、心の健康やメンタルヘルスは日本国民の一大関心ごと。そんな背景から、「心理学の専門家・心理学者になって、人の心の悩みを解決したい!」と考えている高校生も多いのではないでしょうか?
この記事では、心理学者の仕事内容や必要な資質・能力のほか、心理学者になるための方法について解説します。心理学の勉強ができる大学や学部についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
心理学者とは?
心理学者とは、心理学分野の研究活動に従事する研究者です。心理学は英語で「サイコロジー(Psychology)」といい、サイコは「心」、ロジーは「学問や科学・法則」のこと。つまり、人間の心を研究対象として、先に発表されている研究論文を読み解き、心理学分野のセンパイ方の業績を参考にしながら科学的に理解しようとする学問なのです。
心理学は18世紀頃から、学問として本格的に体系化されました。学問としては比較的新しいものなのですが、心理学に関わりのある学問分野は多く、哲学をはじめ神学・医学・生理学・病理学・社会学・言語学などの学問とも密接な関係があるのです。
心理学の分野は、「基礎心理学」と「応用心理学」の大きく2つに分けられます。
基礎心理学は、「認知心理学」「発達心理学」「社会心理学」のようにさらに細かく分けられますが、観察・実験・調査などの方法で、心理学の一般法則を見つけ出すための研究ですね。
一方、応用心理学は基礎心理学で得られた知見をもとに、現実の社会生活で活用しようとする研究のこと。「臨床心理学」や「犯罪心理学」「スポーツ心理学」「教育心理学」など、聞いたことがある名前も多いのでは?
これら、基礎心理学と応用心理学の研究を行う人こそが、「心理学者」と呼ばれているのです!
心理学者と心理カウンセラー(公認心理師、臨床心理士)の違い
心理学に関わりのある職業として、他に「心理カウンセラー」が挙げられます。
心理カウンセラーになるための資格に公認心理師や臨床心理士などがありますが、心理学者とはどのような点が異なるのでしょう?
・公認心理師
公認心理師は、日本で初めての心理学分野初の国家資格として創設されました。心の健康問題を抱えている相談者に、カウンセリングによって助言・指導を行います。
研究がメインの心理学者の仕事とは違い、カウンセリングが主な仕事です。2018年から試験が始まった比較的新しい制度ですから、高い専門性を持つ心理カウンセラーの資格として、これから広く知られていくことでしょう。
・臨床心理士
臨床心理士は、日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格。国家資格が創設されるまでは、長い間、心理カウンセラーの代表的な資格でした。
臨床心理士取得者は、相談者にカウンセリングを行って助言・指導を行う心理カウンセラーなどの仕事に従事します。活躍の場は幅広く、企業や福祉施設、医療現場、教育現場などで働くほか、カウンセリングルームを個人で開業する人もいます。
研究が専門の心理学者と違い、心理カウンセラーは心の悩みを抱える人に直接接する仕事です。心理カウンセラーになるために必要なこれらの資格取得に向けて、大学院進学も前提とした進路選びをオススメします。
心理学者の仕事内容
心理学者の主な仕事内容は、「心理学についての研究を論文としてまとめる」こと。
心理学の研究機関や企業などに所属したり、心理カウンセラーとして独立したりしている人もいますが、多くの心理学者は大学に所属しています。そこで教授・准教授・講師として教壇に立ち、学生へ教育・指導することも心理学者の重要な仕事です。
また研究活動のかたわら、講演活動や企業のアドバイザーを兼任する心理学者もいます。研究で得られた結果や知見を商品・サービスの開発に活かしたり、テレビ番組にコメンテーターとして出演したりするなど、心理学者の活躍の場は本当にさまざま。さて、心理学者のイメージは湧いてきましたか?
心理学者の仕事のやりがい
心理学が研究対象とするのは人間の心、知覚・記憶などの認知機能、そして行動です。
これらについては、まだまだ解明されていない点が多く残されています。これまでの理論や法則では完全に説明できていない未知の領域について、深く研究していく。それが心理学者にとって何よりのやりがいといえるでしょう!
もしかすると心理学者が実験や研究を重ね、導き出された新たな発見によって、人間の社会生活はより快適で、安心安全なものになっていくかもしれません。その意味でも、心理学の最新の研究は、世の中から常に注目されているのです。なんだか心理学の仕事に、がぜん興味が湧いてきませんか?
心理学者の仕事の流れ
心理学者は、心理学者自身が定めた研究テーマについて、これまでの研究や専門文献を調べつつ、「もし、こうしてみたら、こうなるのでは?」と仮説を立て、その仮説を立証するための観察・実験・調査を行うのが主な仕事です。
もし観察・実験・調査で仮説と異なる結果が出たときは、あらためて仮説を立て直し、また観察・実験・調査を繰り返します。そして仮説が立証されたら、研究内容を論文としてまとめ、発表することになります。
研究テーマや仮説によっては、大規模な調査・実験が必要なケースもあるでしょう。たくさんの人に協力してもらう研究もあれば、長期間にわたって調査・実験を継続する研究も…。
こうした研究を続けるには、多くのお金(研究費)が必要です。研究費を確保するためにも、学会で評価される論文を発表していかなければなりません。
心理学者の年収
心理学者の年収は、働く先によって大きく変わってきます。
国立大学の教授クラスの平均年収は、約1,000万円。私立大学の教授クラスだと、さらに年収が高くなるようです。大学講師は、約500万~700万円が平均的な年収といわれています。
心理学者として有名になると、大学教員としての収入以外に、講演料やテレビ番組へのコメンテーターとしての出演料のほか、著書の原稿料や印税、アドバイザーを務める企業から支払われる報酬など、収入源が複数あるケースも。
このように、心理学者の年収は年齢や就業先、働き方、携わる仕事によって大きく開きがあります。
あなたはどんな活躍をする心理学者になりたいですか?
心理学者に必要な資質と能力
心理学者に必要な資質と能力は、厳密にいうと、研究分野や研究対象によって異なります。ここでは、多くの心理学分野で共通して求められる資質と能力について解説してみましょう。
好奇心
人の心には、まだ医学では解明されていない領域が数多く残されています。調査や実験で証明された新説によって、長く信じられてきた定説がひっくり返ることだってあるのです。
日々変わっていく心理学研究の世界に後れをとらないようにするには、常に強い好奇心を持ち続ける必要があるでしょう。
仮にあなたのこれまでの研究が白紙に戻るような目に遭っても、「もっとすごい研究をしてやろう!」とさらに研究意欲にかき立てられ、いっそう没頭するタイプの人にこそ、向いている仕事かもしれませんね。
探究心
これは研究者全般にも言えることですが、心理学者は、自身の研究テーマを、場合によっては一生かけて深く追究していく仕事です。特に心理学の関連分野はさまざまで、研究対象によって必要なインプットも違います。研究に必要な知識ということであれば、ジャンルの関係なく、いろいろなことを吸収できる探究心が必要です。
そもそも研究者には、興味があるテーマについて、「寝ても覚めても、ついつい考えてしまう!」人や、「長年ずっと調べ続けていても、全然辛くない!むしろ楽しい!」タイプの人が、マッチしています。探究心は研究に打ち込むための原動力です。心理学者を目指すのであれば、必ず求められる資質・能力のひとつに数えられるでしょうね。
傾聴力
心理学の研究対象は「人の心」です。人の話や体から発するメッセージに、じっくりと耳を傾けられる資質・能力がマストです。調査・実験を行った際には、被験者の発言や行動に重要なヒントが隠されていることもあるはず。あなた自身の思い込みや仮説にとらわれることなく、先入観をなくして相手に向き合う力が求められるのです。
また、民間企業などと協力して商品・サービス開発などの仕事を進める際には、商品のコンセプトやターゲット、企業として目指している方向性を把握し、心理学者としてアドバイスをします。ここでも、自身の研究成果を押しつけるのではなく、企業やユーザーが求めることにじっくりと耳を傾ける力が必要になるでしょう。
社会に与える影響が大きい心理学者なので、周りにいる関係者と円滑なコミュニケーションを図るためにも、傾聴力はとても大切な資質・能力なのです。
忍耐力
心理学に限らないのですが、「研究」とは、すぐに成果が出るものではありません。研究が長期間にわたることも多く、期待される成果が出せず、プレッシャーを感じることもあるでしょう。研究が「一歩進んでは二歩下がる」を繰り返すときでも、焦らずじっくりと、研究に取り組んでいくスタンスが求められます。
特に、大学院を出たばかりなど、心理学者としてスタートしたばかりの頃は大変かもしれません。
研究を進めるために必要な人や資金が集まらないことも…。研究資金確保のために講師業など別の仕事を掛け持ちしながら、自分の研究を続ける人だっています。研究者としての下積み時代がどんなに長くても、「自分の研究テーマを投げ出さないぞ、これからも研究を継続していこう!」という忍耐力がマストなのです。
統計学のセンス
文系学問だと思われることが多い心理学。ですが、実には調査・実験データを検証するにあたって、統計学のセンスが求められる場面が多いので、文献を読んだり人と話したりするだけだと思っていた人はちょっと戸惑うかも…。
それは、公正な研究成果として認められるため、客観的なデータが必須だからです。心理学者はデータの裏づけを求める理系の考え方が求められる仕事といえます。
研究対象によっては、医学や生理学などの文献・論文を調査・研究するケースも。各分野の基礎的な知識がなければ文献や論文を読み解けないため、ここでも理系の学力を求められます。数値や計算式、理系の学術用語に抵抗を感じない人に向いている仕事なのです。これは一番、驚かれる資質かもしれませんね。
心理学者になるための方法とは?
心理学者になるためには、どのようなルートがあるのでしょう?心理学者の世界の現状も一緒に紹介します。ぜひ、目指すべき大学や就職先について理解を深めてみてください。
心理学者の世界の現状
大学教授など、心理学者という研究職だけで「ご飯を食べていける」人は、実は決して多くはないのです。
ポスドクや非常勤講師などの立場であれば、本業以外にアルバイト講師などをしながら研究を進める人もたくさんいるのが実際のところです。研究者として優れた資質・能力を持っていても、大学の教授・准教授のポストの空きが回ってこなければ、すぐに教授や准教授になるのは難しいかもしれません。
ただ、世の中で心理カウンセラーの需要は高まっています。多くの企業が働く人のメンタルヘルスに気を配るようになっただけでなく、アスリートなどもメンタルケアが重視されるなど、心理学を活用した人の心のケアは各方面から求められているのです。
そのため、大学院を終えても心理学の研究者ではなく、心理カウンセラーの道に進む人も数多くいます。どちらに進むのかは、あなた次第です!
心理学者になるための勉強ができる大学・学部
心理学者になるための勉強ができる学部としては、心理学部・学科への進学がベターでしょう。下記のような学部・学科で学ぶことによって、心理学者を目指すことができます。
<心理学者になるための勉強ができる学部・学科>
・心理学部
・現代心理学部(学科)
・教育心理学科
・健康・スポーツ心理学科
・心理経営学科
・心理福祉学科
・臨床心理学科
・犯罪心理学科
・生活心理学科
・哲学科
ただ、「心理学部・学科ではなければ心理学者にはなれません!」というわけではないのです。大学院で心理学を学ぶ前に心理学系以外の学部で学んでいた人もいます。
ちなみに、有名な心理学者はどのような大学の出身なのでしょうか?
<有名な心理学者の出身大学>
・植木理恵(お茶の水女子大学 生活科学部人間生活学科卒、東京大学大学院教育心理学コース修了)
・臼井博(北海道教育大学大学院 教育研究科博士課程 中退)
・大山正(東京大学 文学部卒、同大学大学院特別研究生修了)
・河合隼雄(京都大学 理学部数学科)
・岸田秀(早稲田大学 第一文学部心理学科卒、同大学院文学研究科(心理学専攻)修士課程修了)
・岸見一郎(京都大学大学院 文学研究科博士課程 満期退学)
※敬称略・50音順
テレビに出たり本を出したりして有名な心理学者が、みんな心理学部・学科で学んできたとは限りません。心理学は裾野の広い学問のため、さまざまな知見が研究に活かせるのです。
心理学者に必要な資格や受験すべき試験
大学院修了後、心理学者になるために目指すべき就職先には、大学以外では主に下記のようなところが挙げられます。
・外部の研究機関
大学院の所属研究室の教授から、国公立などの外部研究機関を紹介してもらえることがあります。大学院での研究で成果を認められ、担当教授に高く評価されれば、やがて紹介や推薦へとつながるはず!
・民間企業
民間企業の研究開発部門や組織行動を研究する部門などに配属されれば、キャリアコンサルタントなど、心理学の知見を活かして活躍できるチャンスがあります。また、臨床心理士や公認心理師資格を取得し、企業の健康経営を推進する心理カウンセラーとして、企業に就業しながら研究を続けるケースも。
・自治体・警察・医療機関・教育機関
地方自治体や警察で募集している「心理職」として就職する道もあります。また、法務技官や医療機関、教育機関でも、心理学の専門家として活躍できるチャンスはあるでしょう。ただし、募集人数はごく少数。狭き門であることには注意しましょう。
心理学者になった後のキャリアプラン
心理学者になった後も、多彩なキャリアプランが待っています。
社会に「人の心を知りたい」というニーズは強く、心理学の専門家としてあなたの力が活かせる場面は数多くあります。下記のようなキャリアプランがあることを知っておいて損はないでしょう!
大学教授として後進の育成をする
大学における心理学研究職の上位ポスト「大学教授」として、自身の研究を継続しつつ、研究室に所属する学生などを指導する側に回り、後に続く未来の心理学者を育てていくキャリアプランです。研究者だけでなく、教育者として心理学の発展に貢献できる、まさに名誉ある仕事ですね!
コメンテーターとしてテレビ番組などに出演する
心理学者や心理カウンセラーの知識や経験を活かして、テレビ番組などでコメンテーターとして活躍する人は、皆さんきっとご存知でしょう。視聴者から人気のあるコメンテーターになれば、知名度を活かして長く活躍することもできるはず。
著書の出版、メディアへの寄稿
心理学で得た知識や経験を活かして、自分の本を出版する心理学者もいます。一般の読者向けに書かれた心理学の入門書や解説書の中には、テレビドラマ化された『嫌われる勇気』のように大ベストセラーになる本も!
自分の本を出せば、「心理学をわかりやすく解説できる専門家」として、雑誌や新聞など各メディアから原稿を依頼される仕事も増えていくでしょう。
心理学の道を志すなら「JOB-BIKI」を活用しよう
心理学者は、人の心を探究する研究者であり、「心の健康」の大切さが叫ばれる社会に貢献する素晴らしい仕事です。社会の多様化・複雑化が進む現代において、今後ますます人の心の問題は重視されていくはず。心理学者が活躍できる場は、いっそう広がっていくに違いありません!
今回、解説してきた心理学者の仕事内容や必要とされる資質・能力を参考に、心理学者を目指すための進路についてあなたも調べてみてはいかがでしょうか。
心理学者、あるいは心理学の専門職を目指すにはどんな大学や学部・学科があるのか、ぜひ「JOB-BIKI」で「心理学者」と検索してみてくださいね!